時間と距離と僕らの旅。

2019年​​「時間と距離と僕らの旅」

odolというバンドのことを知ったきっかけはこの曲だった。その時はこれから続いていくことになるodolとの遠い旅の始まりだとは知る由もなかった。

2020年「小さなことをひとつ」

その後、コロナ禍が始まった頃、radikoのブランドムービーとして生まれたこの曲の映像を撮影する機会をいただいた。こんなご縁もあるのだなと感慨深かった。

緊急事態宣言が下され家に籠る日々が続くなか、改めて、この曲のためのリリックムービーをつくることになった。部屋やそこから見える景色、近所を歩いて撮ったり、これまで撮りためていた映像だけで構成した。この時にできるやり方がそれだったのだ。

2021年「はためきとまなざし」

odolとの協働が本格的に始まった。ジャケット写真を担当したアルバム「はためき」全9曲の映像をつくることになった。1曲ごとに1本の定点映像を撮るというアイデアは前作のリリックビデオを研ぎ澄まして発展させたものだった。最初の「小さなことをひとつ」は部屋の中から始まり、最後の「歩む日々に」では外に出て終わる。外に出られない時から、距離はまだ必要だがようやく出られるようになったタイミングとリンクするような内容の取り組みとなった。

2022年「望み」

ようやくコロナ禍前のような日常が戻り始めようとした頃、JR東海TVCMソングとしてこの歌が発表され、MVをつくることになった。撮影のほとんどは新幹線「のぞみ」がたどり着く場所である神戸と大阪でおこなわれた。会えなかった人にまた会えることの喜びを映した。

2023年「時間と距離と僕らの旅 (Rearrange)」

来るべき新しいアルバムには、ある予感があった。それは、odolというバンドのビジュアルに深く関わっていくなかで、直感的に肌で感じていた気配だった。アイスランドである。そろそろ夏が始まるという頃、まだ不確かだったその予感を携え単身、海を越え飛び立つこととなった。

 

はじめて踏み入れたアイスランドの大地。突然はるか彼方の惑星に連れてこられたような孤独な感覚に襲われた。見渡す限り誰もいない、苔と岩でできた平原を車で走り抜け、疲労と睡魔に襲われながら、もうこれ以上は無理だと諦めかけていたその時、たどり着いたその先に見えたのは、まさしくこの歌詞の景色だった。

あの山を越えたら雲に飛び乗ってさ
世界中を見渡すよ ほら 約束さ
どこまでも行こう
君の目に映る全てが新しくあるように

数年前は家から外にほとんど出られないような日々を過ごしていたのに、気がつけば今は、家を飛び出すどころか、海を越え遠く離れた見知らぬ場所に独りで立っている。目の前には世界が見渡せそうなほどの360度の平原が広がっていた。その先にはとてつもなく大きな山がそびえ立ち、その頂きには重い雲が乗り掛かっていた。それは生まれてはじめての、これまでに見たこともない新しい景色だった。

 

その時、忘れもしない、切実に気が遠くなるような「時間」と「距離」を身体中に感じたのを覚えている。ああ、ほんとうに時間をかけて遠くまできたのだな、と心の中で呟いた。その時にはもう不確かだったはずの予感が確信に変わっていた。なぜなら、ついに、これまでのodolとの旅は美しい円環を描いて「時間と距離と僕らの旅」という歌の名前の通りになったのだから。

 

このリリックビデオをodolに捧げることは、自分にとっての旅のパズルを埋める最後のピースになるような気がしている。遠くの誰かのところまで届きますように。

 

新しいアルバムはメンバーによって『DISTANCES』と名付けられた。物理的なものだけでなく、精神的なもの、かたちのあるもの、ないもの、たぶん他にも、いろいろな距離についての歌が集まっている。ジャケットは、どこかは忘れてしまったけれど、アイスランドで撮った一枚の写真になった。