雑誌『SWITCH 』寄稿(天使たちのシーン/小沢健二)

“神様を信じる強さを僕に 生きることをあきらめてしまわぬように”

 

神様という響きにどこか近寄りがたい印象を持ってしまう。その意味が何によるかを慎重に捉えようとするからかもしれない。とりたてて信仰心が高いわけではない自分にとっては、咄嗟に身構えてしまう言葉だ。しかし、それでもこの歌詞が尊いのは続く「信じる強さを僕に」という部分にあると思う。

 

不安と恐れが世界を包んでいるいま、何かを信じるよりも疑うことのほうがむしろ安心できてしまう。あるいは騙されないための本能的な行動なのかもしれない。その一方で、信じる気持ちを失ったさきにある世界を想像するのもまた、恐ろしい。わたしたちの心は気を抜くとすぐに疑いに支配されてしまう。

 

疑いは闇へと向かう扉で、信じることは光の窓を開ける力だと思う。生きてまた会うために、信じる強さをわたしたちに、その祈りがこの歌には込められているような気がしている。

 

 

この記事は、2020年5月20日発売の『SWITCH Vol.38 No.6』(特集 うたのことば )に寄稿したものになります。