LAのダウンタウンのストリート沿いにある古いビル。そのワンフロアにファッションブランド「DOSA」のファクトリーがある。学校の運動場くらいの広さはあるだろうそのスペースには、ギャラリー、フォトスタジオ、デザインルーム、そして、裁断からパターン、縫製、さらには経理や営業というように、アイデアから生産まで、一環してひとつの場所でおこなえる空間が広がっていた。僕がファクトリーの扉を開けた時、満面の笑顔で迎えてくれた女性、それが「DOSA」の創業者でありデザイナーのクリスティーナ・キムだった。彼女は、15歳のときに韓国からアメリカに渡り、一時イタリアで暮らしていた時期もあったが、ずっとロスでファッションデザインの仕事に関わっている。彼女は常に笑顔を絶やさず、ファクトリーを案内しながらスタッフ一人一人のことを紹介してくれた。クリスティーナがそうであるように、スタッフたちもみな笑顔が美しく、自信にあふれ、佇まいが洗練されていた。
ファクトリーから歩いて数分のところにあるビルの最上階にクリスティーナが暮らすアパートがある。まず衝撃を受けたのが、ファクトリーに劣らぬその広さだった。フロアには、大きな窓から降り注ぐ美しい光が隅々まで行き渡っており、端から端までが仕切りなく突き抜けていた。気持ちよく見渡せるそのスペースのいたるところに、彼女の作品やコレクションがあふれており、すべてがまるで博物館のように整然と美しく、けれど、さりげなくディスプレイされていた。ゆうに10人は腰掛けてくつろげるだろう大きな藍染めのファブリックでつくられたクッションが印象的で、陶器やハンドメイドの籠、膨大なアートブックや写真集、そして、自身が撮りためた壁一面の旅の写真たち・・・彼女の住む場所はインスピレーションの宝庫なのだと感じた。
ファブリックにかぎらず、手仕事で大切につくられたものに彼女はときめいている。 特に気に入っているものは? と聞くと、革で編んだ古い小さな椅子を見せてくれた。 よく見ると、それは全て使い古したベルトで編まれていた。メキシコのある小さな靴工房で、職人が作業中に座るために即席で作った物らしい。 売るためではなく、自分のために、そこにある余ったものを工夫してつくったその椅子に彼女は惹かれ、何度も断られながら、5年間もの時間をかけてついに譲ってもらったのだという。そんなエピソードを聞いた僕は、クリスティーナにその椅子に座ってもらい、彼女のポートレート写真を撮ろうと提案した。彼女はすぐさま、それはいいアイデアだわ! と喜びながらその椅子に腰掛けたのだった。クリスティーナの目は常に新しい発見に喜び輝いている。彼女の作り出すものからは、曇りのない素直さと、人への愛情が感じられるのだ。日本の伝統工芸作家たちとコラボレーションをして、これまでとは違う作品を生み出したいと、目を輝かせながら未来のことも話してくれた。短い時間だったが、彼女とはお互いの生き方や創作に対する向き合い方、たくさんのことを語り合った。日本に帰国した今、僕は、太陽の光であふれるロスに相応しい笑顔の持ち主であるクリスティーナにまた会いたいと思うのだった。
「KINFOLK Japa」vol.6のブックインブックにて「DOSA」のデザイナーであるクリスティーナ・キムについて寄稿いたしました。