小学生の頃、学校のプールに潜って、しばらく水中でふわふわ浮いている時間が好きでした。そこでは、外の騒がしい蝉の鳴き声、近くにいるはずの同級生たちの楽しそうな声が、遠くに感じられました。流れる水や浮き上がっていく泡の音が耳の奥に鈍く届いてきて、まるで独り別の世界に来たような感じがしたのです。
みんなが泳いでいる足や太陽の光が揺れるのをぼんやり眺めながら、身体が水と一緒になったような、息を止めているその間だけ、自分の存在が無になったような感覚がありました。すぐそこにあったはずの真夏の喧騒と暑さが、とても遠くに感じられました。そこは、静かで冷んやりとしていて、なぜだかすこし切なくて懐かしい気持ちになる、誰も知らない秘密の場所だったのです。
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2020年から2024の間に撮影した商業映像を中心にまとめたリールをつくりました。CMやMV、個人的に撮ってきた映像の集まりですが、まるで架空の映画のダイジェストのような、そんなふうにしたいと思ってつくりました。音楽は、ちょうどその頃から協働し続けている odol の森山公稀さんにつくっていただきました。森山さんと自分には、アンビエントやミニマルミュージックという共通の音楽的な志向があって、以前も映像作品に音楽を制作いただいたことがありました。森山さんご自身がそれらの音楽をライフワークとしてつくられていることもあり、今回もその方向性のもと発注し、生み出された音楽になります。
さて、プールの話には続きがあって、そのあと家に帰って、まだ明るい午後にクーラーのきいた薄暗い部屋で静かに寝転んで、何を見るでもなく天井を仰いでいると、疲れて気だるく重い体が畳に沈んでいくような感じがしたのに、気がつくと身体がゆったりと浮き上がっていき、まるで水に浮かんでいるような不思議な感覚がありました。あれはもしかしたらアンビエント的体験だったのかもしれません。今でも夏になると決まってこの感覚を思い出します。
今回のリールは編集も自分で手掛けたのですが、こういうときに頭の中で流れる映像にしたいと考えていました。そして、森山さんの音楽がその役目を大きく担ってくれた気がしています。リールというものを初めてつくりましたが、これからまた増えていくとよいなと思います。森山さんにつくってもらう音楽も増えて、そのうち一枚のアルバムができたりしないかな、そんなことを夢見たりもしています。
ぜひ部屋の灯りをすこし落としてご覧ください。